現在、ポリオウイルスの常在国は世界中でパキスタンとアフガニスタンの2カ国のみとなり、近い将来のポリオ根絶に向けた期待が高まっています。そのパキスタンでのポリオ発症数は、2015年に、前年の306件から54件と大幅に減少し、本年に入っても、歴史的な低水準となっています。今後、流行期の7月~10月にどの程度発症を抑えられるかが注目されます。
他方、ポリオ・ゼロを達成するには、さまざまな困難な課題があります。パキスタン国内で発症例が出る地域が絞られつつある中、今後は、カラチの様な都市部の衛生状態が劣悪なスラムなどでの発症が残っていくものと思われ、ヒト糞便による汚染水からの感染と発症を防ぐために、全般的な公衆衛生の改善が必須となります。さらにアフガニスタン国境に近い一部の地域では、噂や誤解に基づくワクチンの接種拒否が続いています。
この他にも、パキスタンの保健行政や地方各州におけるガバナンスの問題や、隣国アフガニスタン情勢などもあり、ポリオ撲滅への道は容易ではありませんが、パキスタン政府がポリオ撲滅に向けて策定した「ポリオ撲滅緊急計画2016-2018」の下、国際社会が一丸となって早期の達成のために全力を尽くしているところです。
国立研究開発法人国立国際医療研究センター
国際医療協力局運営企画部医療開発課
専門職・医学博士
国際協力機構(JICA)「パキスタン定期予防接種強化プロジェクト」
チーフアドバイザー
JCV理事 櫻田紳